■■■第4章:「ヒトラーの山荘予言」
ヒトラーの予言は、第1章で紹介した2039年に関する「究極予言」の他に、 少なくとも、南ドイツのオーベルザルツベルグ山荘で語られた「ヒトラーの山荘予言」、 首都ベルリンの地下官邸で語られた「指名予言」、そして大戦末期にラジオで語られた 「ドイツ国民にあてたヒトラー最後のメッセージ」の3種類があるという。
それら予言に関する部分を『1999年以後』から抜粋して、順番に紹介したいと思う。 まずは「ヒトラーの山荘予言」である。
(左)アドルフ・ヒトラー (右)ベルヒテスガーデンのヒトラーの山荘
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「もっと霊感の湧く場所が必要だ。私の望む場所はあそこだ。」
ヒトラーはそう言って、南ドイツの名勝の地ベルヒテスガーデンに、不思議な山荘を作るよう命じた。それが「オーベルザルツベルグ山荘」である。彼の奇怪な予感から生まれたミステリーゾーンだ。今はほとんど破壊され、観光用の防空壕ぐらいしか残っていないが、そこは本来、賢い悪魔が見通したような21世紀型の地下都市だった。
「そういう地下都市に、やがて人間は住むようになる。いや、そういう場所にしか住めなくなるだろう。それほどの毒物や毒光がいずれ人類に、少なくとも人類の一部に降りかかる。各文明国はそれを避けて、地下に商店や会社や住居をつくる。ここはそのためのプロトタイプなのだ。」
ヒトラーはこんな不気味なことをつぶやいて、1932年春、権力を握りだすとともに、前からあったログハウスの別荘に加えて、不可解な洞窟式の巨大山荘を作らせはじめたのだ。そこには、完成時には「いずれ将来、見えない毒気が侵入するから」という彼の指示で、空中のどんな有毒物も通さないナチス技術の粋のような浄化装置がつけられた。
「食物も将来は汚染されるから」という指示で、ドイツ科学が生みだした、100年も保つカンヅメ類がたくわえられた。また、そこから伸びる地下通路とインターフォンが、現在と同じ性能の短機関銃を持つ護衛兵に守られて、他のナチス幹部の山荘と何重にも連結された。
「このように、最高の頭脳がシステム化して結合する。それが未来の支配の形だ。ひとつの意志がここから全国民を動かすのだ。それが人間の頭脳であろうと、頭脳のような機械であろうと、やることは同じだ……」
まるで現在のコンピュータ中枢を見ているように、ヒトラーは妖しい目付きで言った。そして希望通りの山荘が少しずつ出来上がってくると、一層インスピレーションをかき立てられたらしく、作業現場を見回りながら、とうとうと未来についてしゃべった。それらをひっくるめて「ヒトラーの山荘予言」と呼ぶ。
一部しか伝わっていないが、その中には、こんなものすごいものがある。
■■ロケットかミサイルの出現を見通した予言
「近い将来、男の性器そっくりの兵器ができるだろう。私(ヒトラー)の勃起した男根を、何百倍にも大型化して小さな翼をつけたようなものだ。それが将来の戦争と世界を支配する。さしあたっては、それが飛んで行ってイギリスを焼き尽くす。いずれはペルシャ湾にもインド洋でも飛ぶだろう。愉快なことだ。私の勃起した男根が地球を燃やすことになるのだからな」
これはもちろん、ロケットかミサイルの出現を見通した予言と受け取っていい。またそうとしか考えられない。その証拠に、ヒトラーはそれを予言しただけでなく、側近の前でその簡単なスケッチを描いてみせた。美術学校には落第したが、彼はもともとイラストレーター志望で、絵はお手のものだった。そしてこのスケッチにもとづいて、ぺーネミュンデ研究所(ナチス秘密兵器研究所)の科学者たちが作り上げたのが、有名なV1号やV2号ロケットだった。そういう男根型兵器が、将来、ペルシャ湾ばかりかインド洋でも使われる、と見通されているのが不気味である。あとで触れるが、この予言は、現在の私たちに突きつけられたヒトラーの痛烈な皮肉でもある。
ナチス・ドイツが開発したV2ロケット。敗戦までに 約6000発が生産され、3000発以上が実戦で発射された。
■■コンピュータやロボットの出現の予言
「私はまた、機械全体の未来もわかる。男根兵器がひとつの例だが、未来の機械はすべて生物か生物の部分と酷似してくるのだ。人間も含めた生物の部分の機能を、機械が代わって果たすようになる。単純な労働はそういう機械がやるようになる。人間の脳そっくりの機能を持つ機械も現われて、人間のほうがその機械にものを訊ねるようになるだろう。」
明らかにコンピュータやロボットの出現の予言。やはりヒトラーのヒントでぺーネミュンデ研究所が開発にはげみ、第二次世界大戦の末期、ナチスは初期のコンピュータとロボット兵器のテストにも成功していたようだ。こんなふうに、ただ未来を見通して予言するだけでなく、そのひな型を命令で実際に作らせてみる。つまり強大な権力によって未来の一部を実現してしまう。ここに魔性の予言者+独裁者としての、他に類のないヒトラーの特徴があった。
■■「国民車(フォルクスワーゲン)」と「アウトバーン」出現の予言
「そしてカブト虫。やがて赤や青や黒や白の、輝くカブト虫が動脈の上を走るようになる。世界中が、我々のカブト虫と白い動脈でいっぱいになる日が来る」
1933年に自動車設計のベテラン、ポルシェ博士に語られた、狂ったような言葉だが、「機械が生物と酷似するようになる」という先の予言を知っていれば、これは容易に解ける。つまりヒトラーはこのとき、どんな形にするか未定だった「国民車(フォルクスワーゲン)」と、まだ設計の段階だった「アウトバーン」(制限時速のない世界最初の高速道路)のことを見通していたのだった。
「アウトバーン」はまもなく作られはじめ、たしかに“白い動脈”の名にふさわしい威容をそなえた。反面、「フォルクスワーゲン」の開発は、まもなく第二次世界大戦が激しくなったため、中断してしまった。だが戦後、すぐに再開され、“敗戦国・西ドイツの奇跡”と驚かれながら、その優れた性能と先進的な大量生産の技術で、世界市場に長いあいだ君臨した。そして、そのボディ・デザインは、ヒトラーが見通した通りのカブト虫型だった。(ヒトラー自身がデザインしたともいわれている)
(中上)アウトバーン開通式(ベンツによるテープカットの瞬間/1935年) (左)大量生産のために完成したファラースレーベンの新工場のオープニング(1938年) (右下)開通したばかりのアウトバーンを試走するフォルクスワーゲン (右上)戦後世界中で販売され驚異的な人気を誇ったVWビートル
■■宇宙旅行・月探検を予言
「そのあと、月から戻って来る者もいる。しかし戻って来ても、その者は、ここがそれ以前のドイツかどうか気づかない」
これは、西ドイツの有名なヒトラー研究家ヨアヒム・フェストが記録している言葉である。ご覧のように、宇宙旅行か月探検を予言した言葉と見ていい。「しかし戻って来ても、その者は、ここがそれ以前のドイツかどうか気づかない」。これは不気味な予知である。月面か宇宙船の中で何かが起こり、パイロットがそれまでの記憶を失ってしまうのか、それとも、そのとき地上に何かの破局が起こって、ドイツ一帯が焼け野原か砂漠みたいになっているのか。もし後者なら、これはこれまでの米国の月ロケットの予言ではない。もっと将来の、おそらくヨーロッパ諸国が打ち上げる宇宙船=アリアン?などのことを言ったのだと思われる。
■■同盟国日本の参戦に関する予言
「もっと差し迫った現実の見通しも言おう。我々ナチスはまもなく第二次世界大戦に突入する。世界を相手に戦う。しかし我々に味方する国も現われる。それは日本だ。日本の戦力は諸君が思っているよりずっと強い。日本は太平洋とアジアから、アメリカとイギリスの勢力を追い払う。見ていたまえ。『カリフォルニア』も『ネバダ』も『ウエールズの王子』も、日本の火薬で地獄へ吹っ飛ぶぞ」
これは予言というより、ヒトラーの作戦計画の一部だったと受け取ってもいい。彼は1937年ごろから、当時の日本の才気にあふれる外交官・松岡外相や大島大使と、第二次世界大戦の日独共同作戦を何度も打ち合わせていたからだ。そのため、上の言葉を聞いたヒトラーの側近たちは、勇気づけられはしたが、既定のプランと考えて別に驚きもしなかった。「カリフォルニアもネバダもウエールズの王子も、日本の火薬で地獄へ吹っ飛ぶぞ」。これもアメリカ西海岸の地名やイギリスの王族の称号を引用して、ヒトラーが米英を罵ったのだと受け取った。
ところが、実際に第二次世界大戦が始まって、日本が加わったとき、日本軍はまずハワイの真珠湾を襲い、戦艦「カリフォルニア」と「ネバダ」以下、多くのアメリカ軍艦を沈めた。またマレー半島の沖で、当時、イギリスが世界最強を誇っていた巨大戦艦「プリンス・オブ・ウエールズ」も、僚艦「レパルス」とともに日本空軍に沈められたのだった。(つまり、ヒトラーが予言の中で口にした名前は「戦艦の名前」だったのだ!)
■■原子爆弾に関する予言
「しかしその報復として、米英を背後で操るユダヤが、日本を絶滅させる恐れがある。ユダヤの天才的な科学者たちが、炎の絶滅兵器を開発するからだ。彼らはそれをアメリカ軍に与え、日本に対して使わせる。日本の都市3つがこれで火星のような廃嘘になる。そうさせる最初の契機に、イギリスが深いかかわりを持つ。また決定段階ではユダヤの『真実の男』が、より深いかかわりを持つようになるだろう。」
読んで字の通り「原爆」の予言だと思われる。原爆は1938年ごろ、イギリスにいたユダヤの原子物理学者レオ・シラードが思いつき、先輩のアインシュタインに知らせた。アインシュタインは当時のユダヤ系のアメリカ大統領ルーズベルトに知らせ、ルーズベルトはオッペンハイマー博士などユダヤ系の天才科学者たちを動員して、1944年に最初の数発を完成させた。しかも、それを実際に命令して広島・長崎に投下させたのは、ルーズベルトの後任者で、やはりユダヤ系のアメリカ大統領トルーマン(→Truman)だった。「真実の男(→true
man)」というつづりと、eひとつしか違わない。
と見てくると、上の予言のうち、外れたのは「日本の3つの都市がその兵器で廃嘘になる」というところだけ。しかし、これもアメリカ軍の作戦では、広島・長崎の次に東京か仙台か松本、更には京都などが目標に挙げられていたという説もあり、本当は「3つ」になるところだったのかもしれない。魔性的な予知能力者による予言と実際との関係──それを避けることはできないが、いくらか方向を変えたり、選択の幅をひろげることは受け手の意思でできる。このことが、これでも少し裏づけられるだろう。
日本に原爆を投下した トルーマン大統領
それにしても、これほど明確にヒトラーが原爆を予知していたのなら、彼は、それを同盟国日本に知らせてくれたのか?
──知らせてくれた。3年ほど前にNHKが放映した衝撃的なドキュメント、『ベラスコの証言』が、間接的にだが、それを語っている。
第二次世界大戦中、日独側に立って働いたベラスコという有能なスペイン人のスパイが、当時ナチスから受けた情報として、また自分でも調べて、『巨大な絶滅兵器をアメリカ軍が日本に落とそうとしている』と暗号無線で日本に知らせた。が、精神主義と官僚主義でコリ固まっていた日本の政・軍の上層部はそれを無視し、広島・長崎の破滅が起こってしまったというのだ。
親日家であり、またヒトラーから 厚い信頼を得ていたベラスコ
これも含めて、この原爆予言はバラバラの資料を集めて構成したもので、まとまった形では残っていない。しかし、ヒトラーは驚くべきことに、以上の予告篇ともいえる鋭い予知を、若い頃の『我が闘争』下巻の中に(角川文庫374ページ)、既にはっきり書いている。「ユダヤは日本に対して絶滅戦を準備するだろう、英国がそれにかかわるだろう」と。さすがに、それを命ずるのが「真実の男だ」とまでは、その時点では記していないが……。
(左)広島に投下された「リトル・ボーイ」 (右)長崎に投下された「ファット・マン」
■■ソ連とゴルバチョン書記長に関する予言
「それでも、我々ナチスは日本と協力して、ソ連とも戦う。それが第二次世界大戦の最大の山の1つになり、我々はおそらく勝てるはずだ。だが、もしソ連とアメリカが──相反するはずの民主主義と共産主義が手を組んだら、我々が敗れる恐れもある。そのときはソ連とアメリカが、激しく競り合いながら、その後の世界の覇権を分け合うことになろう。そうなれば、それにふさわしい強力な指導者をソ連は持つようになる。それは、レーニンより強く、スターリンより賢明な指導者だ。彼は共産主義と民主主義を結合し、マルスの座から世界を支配するだろう。彼は額に『赤いしるし』を持つ男だ。」
すくみ上がるような予言である。しかし当時のヒトラー側近たちは、これを対ソ戦への戒め以上のものとは思わなかった。最後の行の「赤いしるし」も、「共産主義のシンボルということだな」ぐらいにしか理解できなかった。だが、ご存じのとおり、現在(1988年)のソ連のゴルバチョフ書記長のおでこには、まさにこの予言通りの「赤いしるし」がちゃんとついているのだ。ヒトラーがそれを見通していたのなら、「その男が共産主義と民主主義を結合して世界を支配する」も、強い意味で迫ってくる。
ゴルバチョフ書記長。 おでこに赤いアザがある。
■■その他の「ヒトラーの山荘予言」
ほかにも、いくつかの「ヒトラーの山荘予言」がある。第二次世界大戦の勝利と敗北を、的確に見通したものが多い。
「わがナチスは、一兵たりとも損わずにマジノ線を突破し、パリを占領する。」
マジノ線は、フランスの誇った強大な要塞線だったが、ナチス軍はヒトラーの霊感命令で、とても渡れないはずの湿地帯を迂回してパリに突入した。
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これとは別に、当面の戦争を離れて、その後の人類の運命というか、人間の行く末を見通した恐ろしい言葉が、ときどき不意にヒトラーの口から洩れた。
「たとえ戦争も災害もなくても、人間は21世紀、空気と水と食物の汚染だけで衰えていく。いや、その前に、肉食とアルコールとタバコでも衰える。だから私は肉も食べないし、酒もタバコもやらない(これは事実そうだった)。こうすれば、汚染で破滅する者よりは保つのだ。」
「また人間はそのうち、外科手術で内臓をスゲ換えて、他人の心臓やブタの腎臓やサルの肝臓をつけてまでも生き延びるようになる。最後は特別な光線の手術機械を使って、脳ミソまで他人のと入れ換える。つまり、すっかり別人になってしまうのだ……」
『1999年以後──ヒトラーだけに見えた恐怖の未来図』
から抜粋 http://www.bk1.co.jp/product/571419
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