その内訳は、 「6」が7人、 「6か7」が1人、 「7」が15人、 「7より上」が2人だった。 6割の人が「7」だと判断している。 レベル7という評価は1986年に起きたチェルノブイリ原発事故と同じことになる。 だが、この事故の処理にもかかわったという物理学者ナタリア・ミロノーヴァ氏は福島の事故はチェルノブイリを上回る史上最悪の事故だと主張する。 「レベル7以上だと思います。 チェルノブイリでは一つの原子炉が事故を起こし2週間後には一応の決着がついていました。 一方、福島では4基がトラブルを起こし、少なくとも4週間が経過しています。 つまり8倍の規模の事故なのです。 プルトニウム、ヨウ素、セシウムが放出されていて、現場では余震も続いています。 事故は解決するどころか長期化していますから、 こうした放射性物質の放出量はトータルでチェルノブイリを超えるでしょう」 ソウル大学原子核工学科の徐鈞烈教授もチェルノブイリを超える被害をもたらす可能性があると見ている。 ==================================
「チェルノブイリのような炉心爆発があったわけではないので、深刻な事故ではないと考える人もいますが、いまだ原子炉や使用済み燃料プールがいつ爆発を起こすかわからない状態です。 4基の原発が事故にかかわっていて、核燃料もチェルノブイリの10倍以上ある。 これからどれだけ放射性物質が漏れるかわかりません。 いつの間にかチェルノブイリを超える量になっていることも想定されます」 しかも福島原発の周りには、チェルノブイリと違い、いくつもの街があり、東京もそれほど遠くない。 「福島のほうが、国全体におよぼす影響は圧倒的に大きい」 (JCO事故の現地調査にも参加した北海道大学大学院医学研究科・石川正純教授)のだ。 4月18日、経済産業省の原子力安全・保安院は、1~3号機の原子炉内にある燃料棒が「溶融」している(燃料棒内部にある、燃料を焼き固めたペレットが溶けて崩れている)と発表した。 これまで東電は燃料棒の状態について「1号機は70%、2号機は30%、3号機は25%が損傷している可能性がある」と説明してきたが、 損傷より厳しい溶融の状況にあると初めて認めたのだ。 相変わらず、何が起こるかわからない危険な状態のなか、工程表で定められた作業を進めていくことになる。 しかし、「状況は悪くならないと思うが、制御されている状態とも言えない。 悪いことが起きる可能性もあります」 (30年以上、核の問題にかかわり続けてきた米プリンストン大学のフランク・N・フォン・ヒッペル教授) ● 人体への影響は必ずある 今回の事故では現実が想像を超えることが多い。 この先の「最悪の事態」に備えた方がよさそうだ。 「水蒸気爆発を起こすと大変です。 冷却に失敗して大量の燃料ペレットが溶けると、炉心部から下に落ちる。 これがいわゆるメルトダウンです。 このとき圧力容器の底に水があると水蒸気爆発が起きる可能性があります。 少なくともこれが『起きない』と断言はできません。 どのくらいの規模の爆発になるかわかりませんが、圧力容器を破壊する程度のものになるかもしれません。 そうなれば外側にある格納容器も壊れ、建屋も吹き飛ぶでしょう。 もしこの最悪のシナリオが現実になると、いままで出てきた放射性物質の量とは桁違いの量のそれが外へ出ることになりますから、大きな被害となります」 (京都大学・小出氏) 現在は冷却水ポンプが動いているから、メルトダウンの可能性は低くなっている、韓国のPOSTECH大学先端原子力工学部・金武煥教授はそう考えている。 「ただし、強い余震が心配です。 すでにダメージを受けて弱っている原子炉や格納容器のどこかに衝撃が加わり、健全性を維持できなくなったら、つまり冷却ができなくなると、最悪の事態を迎えるかもしれません。 燃料が溶融して、最終的に放射性物質が漏れ出る。 福島の燃料棒の数はチェルノブイリよりずっと多いから、深刻な被害をもたらすことになるでしょう」 もしもに備えて、政府は避難区域を設けてきた。 これに対して、放射線防護学が専門の立命館大学名誉教授・安斎育郎氏は批判する。 「同心円状に避難範囲を定めるというのはきわめて不適切だと思います。 これは計画段階でやる方法です。 たとえば今頃なら南向きの風は吹かないで、風は浪江町や福島市のほうに吹き、雨が降る。 だから、光化学スモッグ注意報のように、毎日、風向きを考えた、こまめで合理的な対処が必要だったと思います。 そのために1980年代中頃からスピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が開発されたはずなのに、あまり役に立っていないような気がします。 避難範囲を、円を描いて決めるのはあまりに稚拙で、ミスではないでしょうか」 IAEA元事務次長の町末男氏も言う。 「積算線量を見てみると、福島第一原発の北西方向にある飯舘村、浪江町の一部などは原発から30km以上離れているにもかかわらず数値が高い。 これは水素爆発で放射性物質が放出された3月12日、14日、15日に北西へ風が吹いていたためと思われます。 つまり距離だけでなく、風向きも考慮しないといけないのです。 今後、多量の放射性物質が出る可能性が低くなった段階で、地区ごとの放射線レベルを細かく測定し、必要な地区のみ避難指示を行うべきでしょう」 今回の原発事故は人間の体にどんな影響をもたらすのか。 専門家たちの意見は分かれている。 たとえばフィンランド放射線・原子力安全センターのユッカ・ラークソネン所長は「損傷した原子炉の制御がこのまま維持されている限り、どんな人の健康への影響もそれほどないと私は思います」と話す。 しかし、フランスの原子力政策の専門家マイケル・シュナイダー氏は、「『安全な被曝量』などというものは存在しません。 たとえ微々たる量でも被曝が原因で病気になる確率は上がっていくのです。 福島原発事故の影響で、がんなどの病気の患者が生まれることは疑いようがありません」と反論する。 京都大学の小出氏も人体への影響があるという立場だ。 「枝野さんは『ただちに影響はない』という言葉を繰り返しているわけですが、その意味は『急性障害がない』ということなんです。 でも、それを言い換えれば『晩発性の障害はある』ということ。 人体への影響は必ずあると私は思います。 それは長い年月のなかで、だんだんじわじわと出てくることになるでしょう」 北海道大学の石川教授はとくに危険な放射性物質としてヨウ素とプルトニウムを挙げた。 「放射性ヨウ素は甲状腺に集積する性質があるため、甲状腺機能が活発な乳幼児の深刻な内部被曝が懸念されます。 また3号機で使用されているMOX燃料にはプルトニウムが含まれているので、プルトニウムによる肺がんの発症も心配です。 ただしがんの発症は10年後など晩発性なので、放射性物質との因果関係を証明するのは難しいと思います」 淡水魚に高いリスクが「飯舘村と浪江町の子供が心配」というのは、東工大助教の澤田氏だ。 「事故の初期に原発から放出されたヨウ素が問題なのです。 ヨウ素131は半減期が短い分だけ、出てくる放射線も強いから。 20km圏内の人は比較的早いうちに避難したからいいのですが、避難指示が出なかったこの2つの村の子供たちの甲状腺への影響を懸念しています。 スピーディという放射能影響予測ネットワークシステムがありながら、どうしてその情報を生かして、避難ができなかったのか、とても残念に思います」 土壌や海の汚染も深刻だと考えている専門家は多い。 「土壌については原発から30km以上離れているところでも農業・酪農に適さない地域が出てくるでしょう。 こうした土地では土壌の入れ替えなど大規模な除染が必要となります。 また海水については高濃度汚染水排出による長期的影響が懸念されます。 そのため海水や海藻を含む海産物に対する放射能のモニタリングを実施すべきです」 (東海大学工学部原子力工学科・高木直行教授) コロンビア大学放射線研究所のデビッド・ブレナー所長は、放射性物質のなかでもセシウムが要注意だと話した。 「セシウムの多くは太平洋に永遠に残るが希釈されます。 いくらかは蒸発して雲に入り、雨になってまた陸に戻る。 いくらかは川や湖などに落ちる。 そして野菜や淡水魚に影響を与えるでしょう。 個人個人が曝される量は少ないですが、多くの人が曝されるという点で心配です。 海の魚より淡水魚のほうが、希釈という点でその効果が薄いのでリスクがあります。 したがって、セシウムの量の検査を実施すべきでしょう」 海には歴史上ないほどの大量の高濃度の放射性物質が流れている。 何が起きてもおかしくない。 そう考えた方がよい。 東京電力は福島第一の1~4号機を、廃炉にすることを決めている。 だがどのくらいの時間がかかるのか。 オランダ・エネルギー研究財団の研究員ボブ・ファン・デル・ズワーン氏は、「これは厳しく長い過程となる。 すっかりきれいにするまでには、おそらく10年はかかる」と指摘する。 専門家のなかには30年かかるという人もいる。 近畿大学の伊藤氏は「核燃料を充分に冷やすだけで10~20年必要」と言う。 「いろいろな方法があると思いますが、まず大事なことは核燃料物質を取り除き、原発とは別の所に保管することです。 そして残った瓦礫を含め、残留している放射性物質をきちっと封じ込める。 コンクリートで覆ってしまうなり、野球をやるドームのようなものを作るなりして、密封するのです」 廃炉にあたって、新たな問題も浮上するという。 名古屋大学大学院工学研究科マテリアル理工学専攻の榎田洋一教授が説明する。 「今回の事故でむしろ問題となるのは、廃炉そのものより損壊した燃料や放射性物質に汚染された放射性固体廃棄物の処理です。 通常の原発を廃炉にした前例はあるのですが、福島のようなケースはありません。 普通の廃炉の場合、排出される廃棄物の95%以上は放射性廃棄物として取り扱う必要のない汚染レベルのものですが、今回の廃棄物は違います。 だから核燃料の再処理施設から出てくるような『まっとうな』放射性廃棄物でさえ、処分場所を探すのに苦労するこの国で、福島原発から出る『訳あり』廃棄物をどこで始末するか、処分場決定までの困難が予想されるのです」 隣家の庭にゴミを捨てた日本 廃炉で終わりではないのだ。 今回の原発事故はこの国が長らく培ってきた信用をも貶めた。 アメリカの原子力エンジニア、ベハード・ナックハイ氏は「3・11」以前の日本の印象をこう話す。 「日本は科学の分野において世界で最も発展を遂げた国のひとつと思われてきた。 そして歴史的に、日本は津波や地震にたびたび見舞われてきました。 だから自然災害に対しても充分に準備ができていて、原子力発電所という高度なセキュリティが不可欠な場所では効果的な防衛システムが機能する。 それによって大地震や大津波が来ても対処できると信じていたのです」 しかし、大事故は起きてしまった。 フランス国立科学研究センター原子炉グループ代表のダニエル・ユエ氏は、原発関係者が「歴史に学ばなかったからだ」と分析する。 「なぜ彼らは1896年6月15日の(明治三陸地震にともなう)大津波による大惨事を知らなかったのでしょうか。 もしちゃんと勉強していれば、津波によって原発の電源が喪失して、冷却システムが止まることはなかったはずです」 |
(つづく)